映画 ブラッド・ピットの超名演!「ジェシー・ジェームスの暗殺」 [映画]
前回、前々回と続けた音楽ネタは楽しいですが、止まらなくなりそうなんで、そろそろ映画ネタに移行しますね。
今回ご紹介する映画は、ブラッド・ピットが文句なしの「超」名演技を披露し、見事、ベネチア国際映画祭 主演男優賞を獲った「ジェシー・ジェームスの暗殺」です。ミニシアター系のためか、いまいち巷で話題になってませんが、本当に素晴らしい作品ですよ。
ジェシー・ジェームスの暗殺
2007年/米 ジャンル:人間ドラマ、 公開中
本作で語るべきは、しつこいようですが、俳優陣の名演でしょう。
南北戦争が決着し、国がまとまりつつある19世紀後半のアメリカが舞台。仲間を率いて何件もの強盗・殺人を重ねた実在の犯罪者ジェシー・ジェームス(ブラッド・ピット)が主人公です。そして、彼に憧れ強盗仲間に加わるも、後にジェシーを背後から撃ち殺す若者ボブ(ケイシー・アフレック)が重要な役どころです。
ジェシーの敵は警察だけではありませんでした。多額の懸賞金と名声欲しさから彼の命を狙う輩どもは後を絶ちません。そして彼の疑念は、いつしか自分を「売る」かもしれない仲間たちへ向けられます。少しでも裏切りの気配を感じると、友人だろうと親戚だろうと、どこまでも追いかけまわし殺すようになるのです。
本作は、「普通の西部劇」とは全く違います。アクションシーンは皆無。ジェシーと、彼の仲間たちの間の、絆、信頼、葛藤、裏切り、を描いた悲劇の心理ドラマなのです。
ハリウッド作品とは一線を画す、地味なストーリー、遅いテンポは賛否を分けるでしょう。前半の退屈さに耐えられない方もいると思います(否定できません)。しかしマッタリした雰囲気から、真綿で首を絞められるように、じわじわと息苦しい展開に変わっていく様こそが、本作の醍醐味といえましょう。
裏切り者と目をつけた仲間を、冷酷に撃ち殺す非情さの裏で、孤独と、底なしの疑心暗鬼にさいなまれるジェシー・ジェームス。それでも、誰かを信じたい、と涙さえ流す彼の複雑な内面を、ブラッド・ピットが何かにとり憑かれたかのように演じています。
彼の力量が発揮されたのは、たとえば、仲間と家族の団欒シーン。画面にブラッド・ピットがあらわれただけでビリビリした緊張感が漂います。静かに語る、その目、その仕草の中に、次の瞬間、何をしでかすか分からない凄味がひそみ、観客は息を殺してスクリーンに見入ってしまいます。
もう一人の主役「暗殺者」ボブは、憧れのジェシーに認められ舞い上がったのもつかの間、偏執狂的な猜疑心の的となり、震え上がることになります。憧れと畏れの入り混じった屈折した心理をケイシー・アフレックが痛々しいほど繊細に表現、ブラッド・ピットに肩を並べる名演技です(ちなみに、本作でアカデミー助演男優賞にノミネート)。背後からジェシーを撃ち殺し「卑怯者」として生き続けなければならない、後半のうっ屈した演技も切ない限りです。
そして、忘れられない印象を残すのは、ジェシーの強盗仲間で、ボブと同様、疑われ怯える気弱なチャーリー。演じるサム・ロックウエルがめちゃくちゃいい!ジェシーに詰問され、震えながら、ひきつった笑顔で言い訳する彼の繊細な芝居!性格俳優の面目躍如の申し分のない名脇役ぶりです!
ついつい役者の演技を強調しすぎましたが、その名演技を引き出した脚本/演出も、もちろん評価されるべきと思います。
強いて苦言を呈すれば、2時間40分は長すぎでしょう。前半のダラダラあってこそ、後半の緊張感が活きたとも言えますが、枝葉を刈り込んで、2時間程度にまとめれば、さらなる名作になったことでしょう。アカデミー賞「作品賞」の本命になったと思います。
とにかく、ブラッド・ピットを、アクション俳優、ハリウッド・スターと考えておられる皆様には、ぜひ、本作で「名優」ブラピを経験していただき、「目からウロコ」になってほしいものです。
まずは強力に推薦させていただきますね!!
こんにちは。
本当にそのとおりですね。
私は、ジェシーの最期の一瞬に見せた、あの落胆と哀しい表情が忘れられません。
命を賭してでも、知りたかったのでしょうね。
期待したこと、一筋の希望と違った答えだったとき、今が自分の死に際だと感じたのでしょうかね。
最期に見せたあの表情が、ジェシーの人生のすべてを物語っているように感じてなりません。
ブラピというより、本当にジェシー・ジェームズでしたね。
by Kelly (2008-02-12 17:03)
ブラピは、7 Years in Tibet のハインリッヒ・ハラー役も良かったです。映画自体が良かったな。
by azm (2008-02-12 23:45)
To Kellyさんへ、
たしかにジェシーの「死に際を悟った」姿は、俳優とか演技を超え、完全にジェシー・ジェームスそのものでしたね。
私は、彼は「そうなること」を分かっていたのだ、と解釈しています。因果応報、ではありませんが、自分がしてきたことの報いが、いつかは自分に返ってくることを感じていた。だから、死の刹那の表情は、落胆でなく、諦念、ではないでしょうか?
それは、映画のラスト、卑怯者ボブの末路で繰り返されますよね。
また、チャーリーが、ジェシーを演じ、まるでジェシー本人になってしまう逸話(実はボブがそうなりたかった)、ボブが「自分」を演じて、それゆえ自分を失う、というパラドキシカルな「人生の皮肉」が、この映画の奥深さを物語っていますよね。
---というくらい、違った視点で議論できる映画というのも、本当に珍しいです。「神は細部に宿る」。できれば、もう一度観たい映画です。
ところで、ブラッド・ピットは、これからどうなっていくのでしょうね?
「バベル」「ジェシー・ジェームスの暗殺」と人間ドラマの熱演が続くと、ちょっと心配です。バカバカしい「オーシャンズ・シリーズ」やアクション映画「Mr.&Mrs.スミス」も是非続けて欲しい気がします。
あれはあれでスカっと楽しいですものね。
by アッシー映画男 (2008-02-13 23:20)
To azmさんへ、
懐かしい作品ですね、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」。
なかなか良い映画でした。ダライ・ラ・マのありがたい言葉にもしみじみとしたものです。
映画を観終わったときに思ったのは、題名はセブン・イヤーズだけど、「チベットには7年以上いたような気がするが?」でした。
そういえば、ブラッド・ピットが当時と今でほとんど変わっていない、というのがちょっとした驚きかもしれません。
さすがに「リバー・ランズ・スルー・イット」の時と今を比べると、老けてはいますが。
by アッシー映画男 (2008-02-14 00:22)