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映画 ノーカントリー、おかっぱ頭の殺人鬼にブルブルです。 [映画]

久々の映画ネタ、アカデミー作品賞受賞作であります。しかし、怖~い映画っす。。。

ノーカントリー 2007年/米

出演 トミー・リー・ジョーンズ、ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン

08年アカデミー賞レースで、作品賞、監督賞(コーエン兄弟)、助演男優賞(バビエル・バルデム)を制した注目作であります。

80年代のテキサスの砂漠風景を舞台に、恐怖の逃亡劇が展開します。

偶然拾った麻薬組織の大金をネコババしたため、組織の放った追手に執拗に追われる溶接工が主人公。

その「追手」がすさまじいのです。目的達成のためには手段を選ばず、無関係の人間も殺しまくるサイコな異常者冒頭、名刺代わりに警官を無表情で締め殺し、通りがかりのドライバーを殺し車を強奪、ホテル従業員、ホテル客まで手にかける---見境なしの無礼講!!

あげくの果てに、別の追手を送り込んだ雇い主に激怒し、射殺します。おいおい、雇い主を殺しちゃだめだろーー、アンタ!?

奇妙なおかっぱ頭に、禅問答の意味不明の語り、不気味な笑み。殺人道具は圧縮空気のボンベと改造散弾銃。キャラ立ちすぎの殺人鬼は、「海を飛ぶ夢」で全身不随ながらユーモアあふれる主人公を演じたバビエル・バルデムさんであります。「海を--」と正反対の湿気たっぷりの殺人鬼、怖い、怖いよ、アンタ~~~~。

ノーカントリー1.jpgノーカントリーおかっぱ2.jpg

追われる男はジョシュ・ブローリン、「アメリカン・ギャングスター」「プラネット・テラー・イン・グラインド・ハウス」のイヤミな役がツボにはまってましたが、今回の、血まみれのグダグダな「やられっぷり」もいい味出してます。勝ち目がない相手に必死の反撃を試みる骨太さは、かっこいいねえ!

もう一人の重要な役どころは、殺人鬼を追う老保安官。「萌え~」のコーヒーCMでおなじみトミー・リー・ジョーンズさん。殺人暴走をくい止めるどころか、後手後手に回って、無力感にゲンナリ。寂しげな目つきと疲れきった姿。いやあ、似合うなあ。この芸風、コーヒーCMで身につけたものに違いありません。

ノーカントリージョシュ.jpgノーカントリートミー.jpg

常軌を逸した偏執狂的な追跡に、戦慄するうち、感動すら覚えるこの映画。さてさて、追われる男はどうなるのか?老保安官と殺人鬼の対決の行方は?---そこを書くとネタバレになるので、顛末は、ぜひ、映画館で確かめてくださいませ。

追われる1名、と、追う2名の活劇ですが、アクション主体のハリウッド的追跡劇と一線を画しています。不条理感」と「無常観」が漂っているからでしょう。

もったいつけても意味がない!といえばそれまでですが、老保安官のセリフには、映画ファンが深読みしたがるネタが散りばめられております。

たとえば、新聞を読みながら「最近の犯罪は異常だ。どうなっているんだ!」と保安官がぼやくシーン。昔は違ったよ、犯罪もこんなに酷くなかった、と言いたげに。しかし、もっとジジイの元保安官補が語る、1907年に親戚が撃ち殺された事件。実は、今も昔も、犯罪は不条理かつ非情であり、本質は何も変わっていない、ってことです。老保安官の懐古主義は、現実からの逃避でしょうか。ヒーローであるはずの保安官が、時代の変化に順応できないダメ人間(というか普通の人間)として描かれており、実にリアルであります。

ところで、老保安官の語る「食肉工場で牛を殺す話」は渋いっすよ。「昔はナイフで牛の首を掻っ切っていた、今はエアガンで脳天を一発だ」と唐突に語るトミー。はぁー?含蓄あるのか、ないのか?相手の「なぜ、そんな話を?」の問いに、老保安官のすっとボケた答えがイカシテます、「---俺にもわからない」。思わずズッコケましたね。

それは良いとして。。。

反面、現実に向き合い、自分の信念とルールを貫く、時代を超えたヒーローたる性格を持つのは、皮肉にも、おかっぱ頭の殺人鬼の方なのですよ。なんたる矛盾!彼は約束を守る律義な男(約束はひどく一方的ですが)。金をネコババした男に、電話で伝えます「今、金を返せば、おまえの妻は殺さずに見逃してやる」--そして、約束はきっちり果たします。普通とは違った意味で。おいおい、あんた、一休さんかよ!?

おかっぱ頭は「悪党」ではないのですね。道徳や常識を超越した「悪」そのもの、という象徴的存在なんです。絶対悪の前には、人間はいかに無力な存在なのか、本作の無情なるテーマ、といえましょう(サム・ペキンパー監督の「わらの犬」を思い出しました)。

ノーカントリーおかっぱ3.jpg

さて、ラストの10分間の出来事は?どう解釈すればよいのでしょう

彼を制裁できるものがあるとしたら、それは---

----と、自己満足、自己完結の深読みが尽きない作品ですが、ま、難しく考えず、純粋に映画を味わえばいいんしょうね。いかんいかん。

評価 : 観る側の感性やスタンスで、評価は二分されましょう。ワタクシは大推薦!ですが、さてさて皆様は??

最後に、別のブログ記事のご紹介です。ワタクシのブログに書き込みくださるKellyさんも、ノーカントリーの記事を書かれています。私のより、よっぽど面白く、映画の良さを語ってますので、ぜひ以下をクリックしてください。

Kellyさんの「ノーカントリー」の記事 → ここをクリック

私の記事にコメントを書く/コメントを読む → ここをクリック


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コメント 8

ふくずみ

会社PCからコッソリと書き込みさせていただきます。
ノーカントリー、私も観ました。イヤ~な空気いっぱいでした。空気圧縮器のアイディアはナイス。それにしても、これでアカデミー作品賞、というのはどうなんでしょうか?追われる男の妻役がケイト・ウインスレット似で、気丈なところが良かったです。Kellyさんのブログ記事は、アッシー映画男さんと違った意味で楽しく拝見しました。Kellyさんの「ジャンパー」の記事もいいですね、同感です。
私は、ノーカントリーの翌日に「魔法にかけられて」(ディズニーです)を観て、やっと人間に戻れました。
by ふくずみ (2008-03-31 09:44) 

博多ちわわ

こんにちは。
昨日、天神(といっても分かりませんよね?)で「ノーカントリー」見ました。
故淀川長治さんでさえ、「ハイ、極悪ですね、気持ち悪いですね、髪型変ですよね」としか言いようないでしょう。
トミー・リー・ジョーンズの保安官、あんた全然働いてないよ!
異様な映画ですが、私は嫌いではないです。
でも聞いてください!同じ劇場でやってたクリスチーナ・リッチの「ペネロピ」のほうが断然いいです。(ブラック・スネーク・モーンのようなぶっとびはありません。おとぎ話、ですから!)アッシー映画男さんの感想を聴いてみたいですね。
by 博多ちわわ (2008-04-02 08:06) 

アッシー映画男

To ふくずみ様、 
「ノーカントリー」の後の「魔法にかけられて」--同じ映画とは言え、落差、大きすぎませんか?
せめて2本の間には「クロサギ」あたりをはさんで欲しいです!
Kellyさんのブログも面白いですよね。突っ込みどころがナイスですよね。
by アッシー映画男 (2008-04-02 19:35) 

アッシー映画男

To 博多ちわわ様、 
はははは、博多の天神、知ってますよ~。そこから西鉄に乗って大牟田へ。私はもっぱらキャナル・シティのユナイテッドシネマズを愛用していますが。。。ペネロピ!観たかったんですよねー、すいません未見です。
クリスチーナ・リッチ、豚っ鼻でも可愛いですよね。
彼女の出演作ですと「スリーピー・ホロウ」「耳に残るは君の歌声」「ラスベガスをやっつけろ」とジョニー・ディップとの共演作が好きです。
博多にもコアでまともな(失礼)映画ファンがおられることを心強く思います。今後ともよろしく!!


by アッシー映画男 (2008-04-02 19:43) 

Kelly

アッシー様、
トラックバック、ありがとうございます!!
うれしゅうございます。

ふくずみ様、
コメント、ありがとうございます!!
うれしゅうございます。

みなさん、やっぱり同じ感想ですね。
実はわたくし、あのおかっぱ頭の殺し屋さんの、モラルというかルールというか、哲学というか… 
共感できたりしたりして・・・(笑)

だからといって、そのモラルに反した人間をこのオカッパ頭の殺し屋さんのようにむやみやたらに殺したりはしませんが。(笑)
ま、せいぜい
「こういう輩は、射殺していいって法律できないかなあ~?」
なんて、心の中でひっそりと呟いてみたりする程度ですが…

ひぇ~~っ・・・
過激な発言ですみません。
あくまでも妄想ですから・・・(爆)

失礼しましたぁ。


by Kelly (2008-04-03 12:32) 

アッシー映画男

To Kelly様、
あーー、鋭いコメントです。オカッパ殺人鬼の「一本筋が通っている」ところが無茶苦茶、魅力的ですよね。
サラリーマンにしたら、大活躍しそうなタイプです(自分の部署にいたら、ものすごいイヤですけどーーー)。間違った指示を出した上司は、即座に射殺されそうですね。
オカッパ殺人鬼は、何事からも逃げないし、動じないところがすごいです。ラストの出来事も、文句も言わず淡々と受け入れちゃいますよね。
「シャツを売ってくれ」と、平静に自転車の子供に語る時のあの感じ。お金いらないよ、という子供に対しても、言ったからには払う、という律義さ。
追われる溶接工が、国境付近で「シャツを売ってくれ」と言ったシーンとの対比。(まさか、このシーンが伏線になっているとは--やられました!)

この作品、モラルというもの自体を考えさせられる映画でしたね。
コインの表か裏で、生死が決まる---不条理なようですが、極論、人間の人生なんてそんなものかな。
かみさんの店を継いだ男に、オカッパ頭がからむシーンもいいですよね。財産目当てで結婚したのか?と。今日は店を閉めますという店主に、おまえは何時に寝るんだ??とさらにからむオカッパ。
いいがかりも甚だしいですが、幸福も不幸も紙一重だと。
生きるも死ぬも、コインの表裏の関係と突き詰められると、返す言葉がないですよね。。。。
by アッシー映画男 (2008-04-04 03:22) 

Kelly

>間違った指示を出した上司は、即座に射殺されそうですね。

爆笑しました。↑
まさにその通り!!

>ラストの出来事も、文句も言わず淡々と受け入れちゃいますよね。

いやぁ~、私は、律儀に交通ルールを守っている彼が、交通ルールを無視したやつに負けてしまう・・・
う~む、それこそコインの裏表のようなもの・・・
で、結末を迎えるのかと思っていたのですが、ちょっと展開が違ってしまいました。

>今日は店を閉めますという店主に、おまえは何時に寝るんだ??とさらにからむオカッパ。

あはは・・・ そうそう、やたらしつこいんですよね。
「なんだよ、コイツ?!ヤバイやつにひっかかっちまった!」っていうおじさんの様子がようく伝わってきましたね。
でも、約束を守る律儀なやつ、っていうのが、このおじさんとのコインの賭けの結果でもわかりますね。

憎みきれないところ(=妙に律儀なところ)に、一層のサイコさと怖さを感じるのでしょうね。
それにしてもゾンビなみの執念と不死身さが凄い!
by Kelly (2008-04-04 09:15) 

アッシー映画男

To Kelly様、
このやりとり、完全にネタバレ領域に踏み込んでますね、ブログ記事で書かなくてもコメント欄でネタバレ---ま、いいでしょう!
オカッパさんが相手を殺すときですが、「有無を言わせず殺るとき」と、コインの賭けで「生き延びるチャンスを与えるとき」がありますよね?
どうも後半にコイン好きになっちゃったような気がします。
この区別はいまいち分かりませんね。嫌いなタイプは、即殺、ってこと?
溶接工のかみさんが、コイン賭けを拒否したときの、オカッパのいやーーな目つきが忘れられませんね。
もしや、「自分の思ったとおりにならないと不機嫌」なだけの器の小さい男だったのか!?おおっ、大発見!!

by アッシー映画男 (2008-04-05 08:23) 

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