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映画 「ヒアアフター」 ・・・観る前に、上映中止となりました。 [映画]

観ていない映画をテーマにとりあげるのは、当ブログで初めてかもしれません。

映画「ヒアアフター」について書きます。

クリント・イーストウッド監督 マット・デイモン主演のアメリカ映画で、2月19日から全国公開されていました。前売券を購入していたものの、なかなか行く機会がなかったのです。

そして、拝見できぬまま、3月14日、本作は上映中止となってしまいました。

中止の理由は、「大津波と、それによる大被害」のシーンがあるからです。東北関東大地震の被害の大きさを鑑み、配給会社が上映”自粛”したのです。

私は映画配給会社の判断を否定はいたしません。しかし、一方で、素直に首肯しかねる点もあるのです。

ヒアアフターP.jpg

映画自体を観ていないので、はがゆいですが、本作は津波を煽情的に扱った「パニック映画」ではなく、災害に遭遇された方の”魂の救済”の物語、と考えています。もちろん大津波に流される街や人々が映像として描かれますから、決して気持ちの良いものではありません。しかし、それを即物的な「売り」にしている作品ではない(はず)です。

映画の姿勢や内容まで考えた時、「津波シーンがあるから上映中止」とは、世間からの批判を恐れた自衛的・保身的な決定とも感じました。

ヒアアフター2.jpg

TV放送ならば、集会所や待合室でTVをつけっぱなしにしていたら、映像や音が勝手に目や耳に飛び込んできます。好むと好まざるとにかかわらず、放送を見せられるのです。したがって時節を踏まえ「放映して良いもの、悪いもの」の判断は厳しくなると考えます。

しかし、劇場公開中の映画の場合、1800円なりの料金を出し、観る側が積極的な意思をもって映画館に出向くわけです。もちろん、映画の内容を何も知らずに観てしまった、あんなものは観たくなかった、という観客もいるでしょうけど、「未知の内容を知ろう」という能動的な行為なのです。

「見せてしまう」TV放映と、「観ようとして観る」映画館上映は、おのずと違う、と思うのです。

ヒアアフター1.jpg

話をややこしくしそうですが、「ヒアアフター」の上映中止に対し、現実に未曾有の大災害が発生した今、無理からぬことと私は理解はします。関係者の方々も、苦渋の決断だったことでしょう。

言いたいのは、こうした”自粛”が、世間の批判を恐れるあまりに「自粛の連鎖」を生むことを懸念しているのです。極論を言えば、津波や地震の場面がある小説やコミックは焚書されて発禁処分。原子力発電所のトラブルを描いた映画(たとえば、「チャイナ・シンドローム」など)はDVD発売禁止。

TSUNAMI、という曲も、もしかして放送禁止になるのでは?

こうなると、被災者の方々への心遣いというより、過剰なアレルギー反応から生まれる「言葉狩り」「映像狩り」の様相を呈してしまいます。

これから日本はなんとか復興に向け、力を合わせねばならない時です。多くの方々の悲しみを、いたずらに刺激することはあってはなりません。さりとて、度を過ぎた自粛や、言葉のはしをとらえて揚げ足をとったり、「臭いものにはフタ」という方向ばかりでは、建設的なものを何を生み出せなくなってしまいます。企業も、個人各人も、どうか品性とバランス感覚を保って前向きに進んでほしい。

この時期に、暴論ともとれる記事になりましたが、最後に補足しますと、アメリカでは映画「ヒアアフター」のDVD売上金の一部を、日本の復興支援にあてることが決定したそうです。

アメリカの映画人たちの懐の深さを知り、この記事を書こうと思った次第です。では。


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コメント 10

堀越ヨッシー

記事の内容に激しく同感します。
 
現在の状況を考えると、上映中止という結果も止む終えないだろうし、感情的には理解出来る部分もありますが、それでも100パーセント納得出来るか?と言われれば、やはり納得出来ない部分もあります。おっしゃるように「映像狩り」のような事態になることだけは避けて欲しいですね。
by 堀越ヨッシー (2011-03-20 20:03) 

アッシー映画男

To 堀越ヨッシー様、コメントありがとうございます。
こうした時期に、当方の考えにご理解を示していただき感謝します。

現状でも、ヨッシー様と当方の懸念はすでに当たっていると言えそうです。
企業はCMをはじめ広報・宣伝活動を見たまんま大幅「自粛」しておりますが、視聴者から「あの放送のここが気に入らない」と重箱の隅をつつくようなクレームも(予想通り)増えているようです。
もちろんごく一部の人たちと思いますが、”被災者の気持ちに立って・・・”という前置きをすることで何を言ってもいい、むしろ、ご自分のストレス発散にしている方もいるのではないでしょうか。
政府や企業に対し、一国民として”声を上げる”ことは必要ですが、生産性の無い”揚げ足取り”も散見される、ということです。

もうひとつ心配なのは、大地震は、当事国の日本にとっては大事件ですが、一方、世界的にはリビアとアメリカが事実上の「戦争」に突入しようとしています。ニュースのほとんどが地震になるのは無理からぬことですが、「国際動向」もしっかりウオッチ&放映してほしいと感じています。
by アッシー映画男 (2011-03-21 06:02) 

ピエール

同感です。当方のブログでも述べようと思っていました。
私は地震の前日、つまり10日にこの映画を見ました。津波で人や家が流されるシーンは確かに衝撃的でしたが、映画のメインテーマは”人生でつらいことがあってもそれを乗り越えて生きていく主役たちの様子を描くことで、観客に生き方を考えてもらう”ところにあります。

中止ではなく当分延期、あるいは津波シーンをカットして上映するなどいくらでも方法はあったはずなのに、こんな良作映画が一様に上映中止になってしまって残念です。おそらく、責任回避するための自己保身でしょうね。

映画より、津波で家などが流される様子が何の規制もなくTVで繰り返し垂れ流しになっている方が、よほど問題です。
by ピエール (2011-03-21 18:15) 

アッシー映画男

To ピエール様、コメントありがとうございます。
大変に力強いお言葉、恐縮です。「ヒアアフター」は、良い映画だったようですね。たしかに、90年以降のイーストウッド監督作品に”はずれ”はなく、常にヒューマンな感動を与えてくれますね。
とにもかくにも、「ヒアアフター」の上映中止は本当に残念です。
ご指摘のように、上映継続する方法はいくらもあったはずですね。
ネタばれと言われようと、観客に対し「津波シーンがあることを理解したうえで鑑賞してください」という但し書きをしても良かったでしょう。

不謹慎な比較に思われそうですが、私が子供だったころ、PTAなる子供の親や教師?が作る組織があり、やたらめったらとTV番組や出版物に「子供に見せられない」とクレームしていたのを思い出します。
猥褻だ、とか、下品だ、という理由をつけていましたが、子供心に、それはクレームする側の品性ではないのか?と思っていました。
まあ、今回の件とはちょっと違いますが、世間の批判、というのは概してそんなもの、とも思っています。

別の団体ですが、「ヤクザ映画は、ヤクザを美化している。それを見た子供がヤクザになる」→だからNG、という論理を振りかざしていました。
いま、そのような事を言えば時代錯誤と嘲笑されることでしょう。

しかし、結局、現在も、事情はたいして変わっていない、と思えてきました。
ブログ記事の繰り返しになりますが、映画の上映中止や、音楽の放送中止が、内容(表現)や意味(意義)を吟味したうえでの判断ならまだしも、時節がら、見せないほうがいい、聴かせないほうがいい(と世間が思うであろう)何かが、少しでも混じっていたら、対象を全否定してしまう。
この節操の無さは虚しいばかりです。

自らの判断ではなく、多勢(の意見)に流される方が楽・・・そんな風に考えてしまったら、今回の震災から日本は立ち直るどころか、どんどん元気が無くなってしまうのではないでしょうか。
by アッシー映画男 (2011-03-21 19:26) 

そうですね

今回の件に限らず、日本では、自らの思考や判断ではなく、大勢に流される傾向が強く感じられます(留学経験があるので余計にそう感じるのかもしれませんが)。

ヒアアフター以外にも上映中止になった映画が多いみたいで残念ですね。街が壊れるシーンがメインの災害映画は中止すべきですが、それ以外の映画は対策(不適当な部分のカット、上映場所・回数・時間の制限など)を講じて積極的に上映し、入場収入を大規模に被災地へ寄付した方がよっぽど有意義だと思います。

これからは、少しでも地震や津波を連想させる映画は製作・上映できなくなるのではないかと心配です<(_ _)>

by そうですね (2011-03-23 18:30) 

アッシー映画男

To ピエール様、コメントありがとうございます。
首都圏のスーパーやコンビニでの買い占めっぷりを見ても、多くの方々が「流されやすいのだなあ」とある意味、関心してしまいますね。
そのうえ、さわらぬ神にたたりなし、といった空気も漂っています。
本当にすべきこと、すべきでないこと、を、個人や企業がそれぞれの立場で考えられるようになれば良いと思うのですが、「連帯感の強い」日本人には、なかなかそれは難しいのでしょうね。
難しい問題です。
by アッシー映画男 (2011-03-25 20:17) 

ピエール

確かにそうですね。連帯感が強いというのはよい面もあるけど、悪い面も大きいです。行き過ぎた自粛はその際たるもので、周りに合わせてしぶしぶ自粛している人も少なくないでしょう。
買占め行動は正しい知識がないことも一因だと思います。
こちらのブログでは震災特集として、風評被害、放射線の話を書き始めました。
http://blog.emachi.co.jp/ikatsuya/diary_detail/00000638351/
by ピエール (2011-04-30 11:52) 

アッシー映画男

To ピエール様、コメントありがとうございます。
まったくおっしゃるとおりですね!最近は、振り子作用なのか、思いっきり自粛を否定する意見も出たりで、まったくもって世の中には「適度さ」というか「加減」の分からない人たちが、いっぱいいるもんですよね。
重要なのは、結局は個人個人の節度なのだなあ、と深く感じる次第であります。
ありがとうございました!
by アッシー映画男 (2011-05-01 07:49) 

ピエール

そうですね。基本は、個人で判断して行動ですね。
自粛するしないは本人が判断して行動するもので、他人がとやかく言って強制するのは・・・

「福島農産物の出荷やユッケ販売の自粛を要請」という言い方自体がおかしいですね。
by ピエール (2011-05-07 17:22) 

アッシー映画男

To ピエール様、コメントありがとうございます。
そうです!極論を言えば「自粛」という概念自体に疑問を感じてしまう私です。
自粛の「自」は、自発的に、という意味ですから、上から言われればそれは強制ですもんね。まあ、言葉のアヤをあげつらうのもなんですが・・・・。
by アッシー映画男 (2011-05-13 23:57) 

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