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映画 「マーラー 君に捧げるアダージョ」 観て損のない音楽映画。しかしアルマ・マーラーが・・・ [映画]

いつの間にやら関東も梅雨入りです。いやな季節になりました・・・と時候の挨拶からはじめるほどブログ更新をさぼっていたわけです。あははは。

さて本日ご紹介の映画は、かなりマニアックです。有名音楽家の伝記映画(という表現も微妙だけど)。描かれる有名人は、クラシック音楽好き以外に食指が動かないであろうオーストリアの作曲家グスタフ・マーラー(1860~1911)であります。

実はワタクシ、クラシック音楽にゾッコン人間でして、CD保有数は約2000枚(←ここ自慢です)、昨年は、1年間にマーラーの全交響曲10曲(番号付き9曲+「大地のうた」)をコンサートで聴く快挙(?)も成し遂げたほどです(←ここも自慢ですぜい)。

ということで、映画「マーラー 君に捧げるアダージョ」は絶対に観ねばなるまい!と、いきごんだのですが、驚いたことに東京でさえ渋谷の1館のみ上映(納得できん!)。結局、出張先の大阪(梅田)で拝見したのであります。

マーラーと聞いて、ケン・ラッセル監督の映画「マーラー」(1974年)を思い出した方は、私に負けず劣らずマニアックですね。あの映画はすごかったなあ。ドイツ語圏の作曲家なのに、英語をぺらぺら話すのはご愛嬌として(イギリス人俳優が演じている)、うつ気味で体調めちゃ悪そうな晩年のマーラーがあまりにもツボにはまってました。汽車で移動しながら、過去の人生を反芻するマーラーさん。しかし、奇才ケン・ラッセル監督、一筋縄ではいきません。ブラックユーモアと奇矯な演出で味付けされ、キッチュなテイストは、正統な伝記映画とは言いがたい怪作です。が、それゆえ魅力的なわけです。バックに流れるマーラーの楽曲は、冒頭を交響曲3番(の第一楽章)で幻想的かつ不安な夢世界を描き、ラストは交響曲6番(のいわゆる「アルマのテーマ」)で希望を描く。選曲センスは抜群でしたねえ。

こんなケン・ラッセル監督の金字塔(?)を前にして、本場オーストリア・ドイツによる合作映画「マーラー 君に捧げるアダージョ」、どのように天才作曲家を描くのでありましょうか!?

マーラー 君に捧げるアダージョ 2010年 オーストリア/ドイツ

監督 フェリックス・アドロン&パーシー・アドロン 出演 ヨハネス・ジルバーシュナイダー、バーバラ・ロマーナー、カール・マルコヴィクス

マーラーP.jpgストーリーと直接関係ないのですが、大感動した点を書きます。それはバックに流れるマーラー楽曲(の演奏)です。本当に素晴らしい!既存録音からの切り貼りではなく、この映画のために、若手名指揮者エサ=ペッカ・サロネンさんがスウェーデン放送交響楽団を振ったそうです。これらを聴くだけでも映画館に行く価値があります、断言しますね。

昨年、サロネンさんの実演(フィルハーモニア管)を聴いたときの感動がよみがえりました。ウィーン・フィルとの来日公演(マーラー9番!)が別の指揮者に代わってしまい、チケット払い戻した痛恨の思い出さえ、今回の映画(音楽)で多少埋め合わせられた気分です。

ちなみに、エサ=ペッカ・サロネンさんは、俳優のジャン=マイケル・ヴィンセントに似たイケメンなのであります。どうでもよい話ですが・・・。

さて本題の映画について書きましょう。

「マーラー 君に捧げるアダージョ」、よい意味でソフィスケートされておらず、ケレン味たっぷりなところがおおいに気に入りました。(最初の20分、映画に入り込めずにムズムズしましたけど)

冒頭、スクリーンに”注意書き”が映し出されます。いわく「起きた出来事は史実、どのように起こったかは創作」。そのココロは何か?本作はマーラーの妻だったアルマが、夫の死後に出版した自伝に基づいて作られています。で、この自伝なるものが実に怪しく、執筆したアルマ有利に歪曲されているように思われます。マーラー=悪者(加害者)、アルマ=被害者の構図がありありですもん。長生きしたほうが得ってことで、ちょっとイラッとくるのですが、本作は上手い切り口で、そのハンデを乗り越え、痴話げんかを高尚な(?)「愛の物語」に仕上げたんですねえ。

マーラー3.jpg

音楽家として苦悩する夫=マーラーをよそに、若いイケメン建築家と不倫セックス三昧の妻=アルマ。思わぬ形で不倫がばれ、ご夫婦&浮気相手の泥仕合へと発展します。絶望で精神混乱にいたったマーラーは、著名な精神学者フロイトのもとを訪れ心理療法を受けるのです。

フロイトの治療は「愛するがゆえ、妻に対し独善的に振舞う」マーラーの”欠陥”をあぶりだしてゆきます。空気を読めない音楽馬鹿マーラーと、頑固で容赦のない精神医学の祖フロイトの丁々発止のやりとりが実に面白い。マーラーのせっかち&自己中っぷりはフーテンの寅さながらにユーモラスであり、一方のフロイトは「セックスはしていたか?」という質問を何度も発し、マーラーを激昂させる・・・こんな調子で、なかなか大胆な味付けがなされています。

「英国王のスピーチ」のジョージ国王とローグの関係のように、相反する二人がやがて共感を抱いていく展開は、予定調和でゲンナリしそうですが、本作は登場人物を戯画化して、あえてリアリティを追求しない「逆手」が成功して、それなりに楽しむことができました。

マーラー2.jpg

内容について、もう少し詳しく書きましょう。

20歳そこそこでピアノの名手、作曲までこなす当代一の美才女アルマ。19という年齢差を超え、音楽の絆で結ばれ、結婚したマーラーとアルマですが、最初のつまづきはマーラーが彼女に作曲を禁じたことでした。一度は音楽を捨て、従順な妻に徹しようとしたアルマですが音楽活動一辺倒の夫と気持ちが行き違うようになります。決定打は愛娘の病死です。自責の念から、アルマは「何か」を求め不倫に溺れてゆくのですね。(うーん、この女、自分の不倫をかなり正当化しとるなあ~おいおい。)

マーラーは、フロイトの助けで、自らの過去を振り返り、そこかしこに自分の「至らなさ」を発見するのであります・・・と書くと、ベタな主人公反省ドラマに聞こえましょうが、それ以上の「愛の本質」にまで思いをはせるのは、さすがは天才マーラー!(←ここまで創作するなよっ!)

うっすらと、ですが「希望」を見出したマーラー。フロイトとの「旅」を終えた作曲家の表情には、冒頭の絶望はありません。ラストシーン、素晴らしい音楽をバックにマーラーの独白がかぶります。

「愛は愛を、真心は真心を呼び起こす」

愛は奪うものではなく、与えるもの・・・うーん、なんだか、説教くさい空気にまとめてしまったが、今回はこんな程度でご容赦ください。

前述のように、ちょっと芝居がかった演出が鼻につきますが、真摯にマーラー夫妻の人生に向かい合った佳作だと評価しておきましょう。

マーラー1.jpg

最後に一言。マーラーとフロイトを演じている俳優さんはバッチリでした。しかし、物語の台風の目であるアルマ・マーラーを演じている女優さんは(あくまで個人的好みですが)とても美女とは思えず、気の強いおばちゃんって感じでプチがっかり。劇中での彼女のモテモテっぷりが、妙~な雰囲気でした。ま、そんな点がヨーロッパ映画らしいよね、と納得しておきましょう。チャンチャン!


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コメント 2

marronier

昨日DVDでみました。おっしゃるとおりのポイントと思いました。マーラーの死への恐怖に加え、もう一つの苦悩の軸に鮮明に焦点が当たっていると感じられました。他にもユダヤ人とか改宗とかいろいろあるのでしょうが。マーラーの交響曲で表現されてい輝かしさや3番の少年の合唱のようなさわやかさ、永遠への憧れといったものと反面の地をはいずるような混沌、激情的に移り変わる激しい気分の変化、幸せだった時代への憧憬、安らぎへの希求などの苦悩の背景が良く理解できた思いでした。確かにもうちょっとアルマは美人でもよかったですね。なんせウィーン1だったといわれていますから。
by marronier (2012-12-26 10:27) 

アッシー映画男

To marronier様、コメントありがとうございます。
けっこうマーラーの人間的な部分を強調したハナシの運びになっていましたね。コンプレックスあり、プライドあり、で複雑な性格の方だったので、どうしてもこうなっちゃうんでしょうか。
繰り返しになりますが、愛憎劇としてのリアルのためには、やはりアルマさん役には姉御雰囲気よりも、すんごい美人の女優さんを使っていただきたかったですーー。
by アッシー映画男 (2013-01-05 10:22) 

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