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映画 「ブラック・スワン」 予想外のホラーテイストに嬉しくなりました! [映画]

映画「ブラック・スワン」であります。そろそろ公開も終わりですね、多くの映画ファンは観終わったでしょうから、今日は思いっきりネタバレでいくぞ~~。わはは、気持ちいい。

可愛いお嬢ちゃんイメージの女優ナタリー・ポートマンさんの「別の顔」を前面に打ち出し、彼女にアカデミー主演女優賞を、映画に大ヒットをもたらした、過去1年で最も成功した作品といえましょう。

しかし、私は、見事にこの映画にしてやられましたね。「レクイエム・フォー・ドリーム」のダーレン・アロノフスキー監督作ですから、一筋縄でいくまい、と予想はしてましたが、まさか、ここまでダークかつ、サイコな作りとは・・・一歩間違えたら、B級ホラーになりかねない危険な賭けにアロノフスキー監督と、主役ナタリーさんは果敢に挑戦し、見事「勝った」と断言しましょう!アッパレなり!

ブラック・スワン 2010年米

監督 ダーレン・アロノフスキー 出演 ナタリー・ポートマン、ミラ・クニス、ヴァンサン・カッセル、ウィノナ・ライダーほか

ブラックスワンP.jpg有名クラシック・バレエ団の頂点(プリマ)を目指し、しのぎを削る若いバレリーナたちのドロドロした確執と葛藤を描く人間ドラマ・・・前宣伝から、そんな内容を予想していたワタクシです。いわゆる北島マヤと姫川亜弓の「紅天女」の主役争いってかぁ・・・うわあ、たとえが古いわっ!

たしかに、「ブラック・スワン」でも、主人公ニナ(ナタリー・ポートマン)とライバル、リリー(ミラ・クニス)のトップ争い、具体的に言えば「白鳥の湖」のスワン役をめぐる確執が描かれます。しかし、驚いたことに、この映画、ニナとリリーのライバル対決は、しょせん添え物にすぎないのであります。

では、この映画の核心は何か?といえば。

ずばり、主人公ニナの狂気、に尽きます。

愛情を押しつけ何事にも干渉してくる母親に「監視」され精神の自由を奪われ、一方で、有名バレエ団の海千山千の同僚たちと役を争わねばならないストレス。ひとつの目標に対し、あまりにもストイックに努力するニナの鬱屈した精神・・・映画の前半でこれらが見事に描かれます。

バレエ「白鳥の湖」に登場する、善と美の象徴=白鳥(ホワイト・スワン)と、悪の象徴=黒鳥(ブラック・スワン)が、同じバレリーナによって演じられるというアンビヴァレンツな設定こそが、まさにニナの精神の分裂そのものなのです。そう、やがて狂気の「黒」が彼女の「白」を覆い尽くしてしまうことになる・・・。

ホント、脚本が上手いわっ!

ブラックスワン3.jpg

劇中にも出るセリフですが、彼女の敵はライバルのリリーでもヴェロニカでもなく、「彼女自身」だということです。

胸はぺったんこ、やせっぽち、セクシャル・アピール要素はゼロ。女性なら当たり前の化粧すらおぼつかない。セックスどころか、男性とのキスも出来ない未熟なニナ。自分に自信がもてず、いつもオドオドし、二言目には「ごめんなさい」と言って演出家から怒鳴られる始末。ナタリーさんが、このグズグズ・キャラをあまりにも上手く演じるため、オボコ(死語?)カマトト(死語?)っぷりにイライラ~としてくるんですけどね。

ところが映画はゆっくりと、しかし確実に、彼女の妄想と幻覚をスクリーンにあぶりだしていくんです。うわあ、このあたりから、かなり怖いぞ、怖いぞ・・・。

まずはサスペンス映画のように地味に・・・たとえば、ニナが、暗いガード下で、自分とそっくりな女性とすれ違い「あっ」と驚く場面。かつてアラン・ドロンが演じたウイリアム・ウィルソン(主人公が自分の分身=ドッペルゲンガーに悩まされる)を思い出させる卓抜なシークエンスです。「狂気」の発端を描くとともに、その後の伏線にもなってるんですから。

ブラックスワン4.jpg

主役スワンの座に大抜擢され、突然、注目の的となるニナですが、今度は主役を演じるプレッシャーに押しつぶされそうになり、練習でミスを連発します。同僚の言動は、自分を主役から引きずり降ろそうとする悪意に満ちたものに思え、公演初日に向かって彼女の狂気は加速しはじめます。

精神を崩壊させていくニナの目に映る、血しぶき散るホラーのごとく、凄惨な幻覚・・・。

ニナがトップの座を奪う形になった、元プリマのベス(ウィノナ・ライダー)は自暴自棄となり交通事故で両足の機能を失います。過去に出来ゴゴロからベスの持ち物を盗んだニナは、罪悪感にさいなまれ、ベスの病室を訪れて謝罪しようとする。ところがニナのこの行為は逆効果で、ベスは自らの顔に何度も刃物を突きさし血まみれになる・・・こんな悪夢の光景を生むのであります。うひゃーー怖い。

こうした節操のない盛り上げっぷり、大歓迎であります。

ところで、偉大な映画の条件のひとつは、「細部が徹底して作り込まれていること」ですが、本作はそこも抜かりはありません。ニナは寝ている最中、無意識に、血が出るくらい肩甲骨のあたりの皮膚をかきむしるのです(幼少期のトラウマをにおわせている)。不安定な情緒を象徴するシーンなんですが、これが凄まじい伏線になっているわけです。

いよいよ「白鳥の湖」の公演直前、プレッシャーとストレスと幻覚からボロボロになっているニナですが、自傷した肩の引っかき傷から黒いものが「生えている」のを発見するんです。愕然とするニナ・・・。

すでに、自分の精神の異常に気づいている彼女ですが、もはや、後には引けません。

「白鳥の湖」初日。自分の役を奪おうとしたライバル リリーを殺し、死体をクローゼットに隠したニナは、白鳥(ホワイト)としてステージに登場します。精神の混乱と、自分のバレエに自信が持てないため、踊りは精彩を欠き、あげく、見せ場のリフトシーンで床に落ちてしまう・・・。

極度のパニック状態のなか、今度は、衣装と化粧を変え、黒鳥(ブラックスワン)としてステージに出なくてはなりません。

そして、映画の最大のハイライトです。

最初は動きの硬いニナですが、次第に「ブラック・スワン」が”乗り移ったように”踊りは熱を帯び、やがて凄まじい表情と踊りへと変貌していきます。鬼気迫る迫力と表現力に、公演会場は大熱狂に包まれます。そして、圧巻は、例の肩の傷から、真黒な大きな羽が、どばーーっと生えてくるシーン!

「うわあ、出たぁーー!」と叫びそうになりましたね~。

ブラックスワン1.jpg

そう、ニナは狂気の果てに、自らの殻を破り、ついに「本物」に変身した、というわけです。

脇道にそれますが、本作の海外版ポスターは以下で、日本版よりも内容を適確に表現した良いアートワークだと思うのですが。。日本じゃあ「ひび割れた主演女優の顔」のポスターは受け入れられないでしょうけどね・・・。

ブラックスワン2.jpg

さて、映画は、悲愴な結末ながらも、それまでのエキセントリックさを埋め合わせるかのように、ニナの平和と愉悦に満ちた表情で締めくくられるのでありました。いやあ、満足満足。パチパチ・・・・。

他出演者、たとえば、ニナの母役や、ライバルのリリー、演出家のトマ(ヴァンサン・カッセル)も大健闘ではありますが、究極、この映画はナタリー・ポートマンさんの「ひとり芝居」であります。バレエシーンも見事であり、ここは素直に主役にエールを送ることにしましょう。パチパチ・・・・。

ここまでやっちゃと、ナタリーさん、次の出演作選びが大変じゃん?と思ったら、なんと、SFアドベンチャー「マイティ・ソー」(公開中)ですからね、彼女、頭がいいわ、やっぱり。ここでもパチパチ・・・・。


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azm

ども! 気になる映画でしたが、なるほど、かなりサイコロじゃなく、もといサイコなストーリーなんですね。予告編だけでも狂気が滲んでましたね。しかし、いつもながら要点を的確にまとめる所がスゴイです。映画を観た気になっちゃいました。
by azm (2011-07-04 22:30) 

アッシー映画男

To azm様、コメントありがとうございます。
サイコーにサイコな、サイゴまで緊張感いっぱいの快作(怪作)でありました。
あっけなくまとめてしまうと、アーチストや、シンガー、ダンサーといった「芸能」の方々は、ふてぶてしいくらいじゃないと、やっていけない商売だよ、ってことでしょうか。
うーん、そんな月並みなまとめで良いのでありましょうか・・・。

いや、それよりもツボはここですね。
「鏡以外で、自分自身を見るようになったら正気を疑え」ということ・・・うわあ、なんだか怖いですね。
誰もいない職場で残業をしていたら、ポンと肩をたたかれ、振り返ると、そこには「自分」が立っている、ゾゾッ・・・ああいやだ。
by アッシー映画男 (2011-07-05 21:53) 

アッシー映画男

To YaCoHa様、niceありがとうございました!
by アッシー映画男 (2011-08-17 08:26) 

アッシー映画男

To inuneko様、niceありがとうございました~。
by アッシー映画男 (2011-08-17 08:27) 

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